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自律的なキャリア形成の重要性 未来の選択肢を自分の手にする

「キャリアは自身が考え、形成していくもの」という考えが浸透してきました。
以前は、キャリアは会社に決められるもの、会社が考えるもの、と捉えている方も多かったかもしれませんが、近年では能動的に自身で考え行動することが求められています。

「自律的なキャリア」はなぜ重要なのか?私たちはどう考え、行動したら良いのか?-若手・40代半ば以降、悩みの多いそれぞれの世代について鳥居先生に伺いました。

案内役

鳥居 勝幸 氏
Katsuyuki Torii

サイコム・ブレインズ株式会社
 ファウンダー/専任講師/
プログラムディレクター
アビリティーセンター株式会社 顧問

*鳥居先生のご経歴はこちら

聞き手

江渕 泰子

アビリティーセンター株式会社 
企業研修グループ リーダー
サイコム・ブレインズ株式会社 
シニア・コンサルタント/講師

「自律的なキャリア」は
なぜ重要なのか?

江渕) 今、なぜキャリアが注目されているのか教えていただけますか。

鳥居) 一つには、今すごく人材が流動化していることが挙げられますよね。

中途採用者を採ることもできるし、戦力となっている社員が辞めていくこともあるので、基本的には(社員の)モチベーションを高めたいという想いを企業は強く持っていますね。

なぜ企業は「自律的キャリア形成」を重視するのか

モチベーションの根底にあるものを考えると、承認欲求など色々ありますが、基本的には自分のキャリアをどのようにするかが一番大きいと考えます。

マズローの欲求5段階説で言うと、自己実現欲求は、キャリア意識の芽生えだと思います。キャリアが注目されている背景には、人材不足を解決するには、根本的にモチベーションを上げられる会社であらなければならないということがあると思います。

モチベーションの根源は、キャリアへの意識から

※マズローの欲求5段階説

心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階に理論化したもの。人間には5段階の「欲求」があり、1つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表している。

江渕) 人材の定着、確保という現実的な意味合いでキャリアが注目されているんですね。

鳥居) そうですね、会社側が考える施策、例えば「インセンティブをあげましょう」といった小手先の話ではないですよね。根本的なモチベーションというのは、自分がどうなりたいかを考えることにあって、答えは出なくても良いので、考えることでモチベーションが生まれます。

会社から「〇年後にどうなりたいですか」と聞かれても答えられない方もいると思いますが、考えることに意味があります。何を経験するのか、大事にするのか、何をやりたいのか、考えることによってモチベーションが上がります。

また、個人の観点では、一つの会社に長くいるのが前提で就職しなくなったので、どこかの会社に就職するとしても一つのステップと考えるのが当たり前になりました。そのため、キャリアを考えるのが当然、という感じですよね。

自分のキャリアを自分で考えていかないと、自分の人生が全部人任せになってしまう。このように社会の価値観が変わってきていますので、個人にとってもキャリアに注目せざるを得ないですよね。

江渕) 労働市場が流動化しているということとも関係していますね。

若手のキャリア

江渕) 実際の若手社員の離職防止に関して、キャリア研修はどのように役に立つと思いますか。企業からは「離職が増えてきたのでキャリア研修をやらなきゃ」とよく耳にします。

鳥居) キャリア研修をすると、受講者はキャリアを考えるきっかけをもらえますよね。

そこでキャリアが見えるわけではないと思いますが、きっかけをもらえるので、考え始められますよね。

考え始めるということは、「すぐどこかに転職しよう」というわけではなくて、「どんな自分を作っていくか、どんなビジネスパーソンになっていくか」を考える。考えると、「今やるべきことは何だろう」と普通は思いますよね。例えば海外で仕事をしたいなら、英語を勉強しなければいけない、というように。

未来の選択肢をつくるのは「今」

そうすると、自分から働きかけるなり、希望を出すなり、誰かに相談するなり、行動を起こすと思うんですよ。その相手は往々にして、恐らく上司か、同僚か、先輩か、人事か、社内ですよね。そのことによって、突然辞表を持ってくることはなくなりますよね。

江渕) それはとても大きなことですよね。人事の方はやはり皆さんそこ(突然の退職)に悩んでいらっしゃいますので。

鳥居) 人間というのは期限付きでは努力できるんだと思うんですよ。

例えば5年後に海外に行ってビジネスをしたいとすると、まず3年間は徹底的に国内で実績を作って、誰もが認めてくれて、「あなただったら海外に行っても大丈夫だね」となるように頑張りますよね。

このように期限付きであれば人間は頑張れるので、それは、今モチベーションを上げることや、今努力することを意味していますよね。会社にとっては非常に有難いことだと思います。

離職防止というよりは、要は仕事に熱心になってくれるということです。熱心な時に急に辞めないですよね。

江渕) 確かに突然辞表を持ってくるという現象が減るというのはイメージし易いですね。

鳥居) もっと格好良く言うと、「キャリアについてもっとオープンに話そうよ」ということだと思います。最終的に辞める人は辞めるので、いくら心を尽くしても変えられない、仕方ないところですが、ただ、「会社をオープンにコミュニケーションを取ろうとする場にしたい」ということだと思います。

江渕) オープンにすることによって、会社の中でアサインできる仕事があって辞めないこともあり得るし、逆に仕事がなければ辞めることもあり得る。ただ、黙っているよりは良いですよねということですね。

鳥居) そうです。先程の5年後の希望の話ですが、5年後に希望が変わっているかもしれないですよね。見えている風景が変わるので、このままいようと思うかもしれない。

江渕) 研修の受講者のみなさんをみていると、数年間で大きく成長される方は、研修の場で色々と考えている印象があります。

鳥居) 優秀な種を持っている人は、素直なだけじゃないはずなんですよね。色々考えているはずなんです。「うちの会社ではキャリアの話は禁句です」という雰囲気の場合には、突然辞めることが起こり得ますよね。今や入社して3年位の人は全員ビズリーチに登録していますからね。そうしたら、オープンなコミュニケーションができる方が勝ちですよね。

江渕) キャリアについてオープンについて話せる雰囲気があるかは大切ですね。

若手社員の方から「昇進・昇格しても重圧が増えるばかりで上に行きたくない」という話を聞きます。若手社員の将来の姿である上司の立場の方は、何を見せることができるでしょうか。

鳥居) やはりビジョンを持っていることだと思います。自分はこんなことがしたい、自分の部門でここまでやりたい、というビジョンを見せることが大事で、そうすると「課長になったら面白そうだな」と思えそうですよね。上司の方は仕事に対するこだわりといった価値観を伝え、若手の方はそれを聞くことで感化されますよね。

あとは、昔の上司みたいにヒエラルキーの中にいて、上にあがる程に偉そうにするのを止めたらいいと思いますね。(偉そうにしている人を見ると)「ああなりたくないな」と思いますよね(笑)。

江渕) それはそうですね(笑)。

鳥居) ダイバーシティの世界を作れるかどうか、ですね。

江渕) 様々なキャリア観があっても許容される世界ということですね。

40代半ば以降のキャリア

江渕) 年代で言うと40代半ば以降、おおよその自分の先のキャリアパスが見えている方が、モチベーションを高めていただくには、どんなことが大事だと思われますか。

企業からは、「専門職として働いている方のキャリア教育はどうしたらいいか」「女性の方で職種が限定的で、ベテランになってから『職域を広げろ』と言われても中々考えが変わらない方についてはどうしたらいいか」というお話をよく伺います。

鳥居) 女性の方で部長になった方を研修で何人も見てきたのですが、(経験業務が)専門的な領域に限られている人は多くて、男性もそうなのですが、昔で言うジェネラリストみたいな人は今あまりいないですよね。

専門性に特化して昇進してきているので、ある方は部長になって「部下がやっていることは全然分かりません」と言っていて、何をしているかと言うと毎週120人分の週報を読んでいるそうなんです。部下の領域の業務までやろうとすることは無理だけれど、やっていることを理解することはできる、理解ができればマネジメントはできる、と言う話ですね。

キャリアは、自分の専門領域から無理やり出ないといけないという話でもないような気がするんですね。ただ、マネジメントという領域は勉強しないといけないんですよね。

例えば、事務職のまま課長になりました、と言う場合には、営業のことは分からないかもしれないけれど、営業をする必要はなくて、マネジメントができれば良いわけですよね。これが一つの考え方ですね。

シニアの方も同じで、たぶん自分がやってきた領域は相当専門的だと思うんですよね。「それ以上キャリアがない」とよく皆さん言うのですが、ポジションという意味ではそうですが、内的キャリアで、仕事の中身で言えば上はいくらでもありますよね。仕事の質や、仕事の価値、職人なら職人で際限なくあります。「まだまだできていない」と思っていて、「次のステップとしてここまで行こう」考えるのは、立派なキャリアだと思います。

江渕) 先がない、専門外でできないと考えるのは、バイアスである、と言い切っていいんでしょうか。

鳥居) 私はそう思いますね。仕事に先がないというのはあり得ないと思います。

私が研修をしていても、勉強もきりがないですよね。この年になっても勉強が終わることはないですからね。だから、量であれ質であれ、上限というものはないと思うんです。ポジションという意味ではありますが、上昇思考があれば内的キャリアという意味ではないですよね。

江渕) ただ、40代50代の方でそういう考え方をする方は少ないですよね、それはなぜでしょうか。

鳥居) これがバイアスだと思うのですが、“上がり感覚”が満載で、もう40代も後半になると「自分は一線を退いて後進の育成を・・」と言い出すんですね。

だけれど、たぶんそんなことはないと思うんですね。人生100年時代と考えたら、70歳位まで働くことになり、50歳なんてまだ若いですよね。

人生百年時代とは50年働くのが当たり前の時代

江渕) それは会社の給与体系や評価制度、上司が部下になってしまったりという構造的なこともあるんですかね。

鳥居) 会社の責任は大きいでしょうね。最近日経にたまに出てくるようになったのは、シニアの待遇改善ですね。女性活躍推進がある程度見えてきて頭打ちになるので、あとはシニアだということになりますよね。

江渕) 今の会社、世の中の仕組みに囚われすぎない方が良いですよね。

鳥居) はい、やはり自分の人生を大事にした方が良いと思います。長いですよ、人生は(笑)。

江渕) 重みがありますね(笑)。

私自身は恵まれていると感じていて、色々なチャンスをいただいてここまで来ていますが、友人・知人を見ているとそうではない方も多くて、学生の頃は優秀だった同級生が、力を持て余しているということを感じることがあります。そういう人が再活性化しないと本当の意味で生産性は上がっていかないと思いますし、今からでも間に合う40代半ば以降の社員の活躍の仕方について、アドバイスいただけたらと思います。

鳥居) それが研修のプログラムになっていますよね。

まずは自分の過去の素晴らしさに気が付くというところからアプローチします。若い時、中堅の時に色んなことを行ってきたはずなので、その時に自分が身に付けてきたスキルや人脈を棚卸ししましょうというのが研修の入口です。

棚卸ししてみると、「けっこう素晴らしいことをしてたんだな」と自分の強みが発見できるし、研修の受講者からもそういった意見を言ってもらえる。

それを踏み台にして、「将来もっと選択肢があるんじゃないですか」ということに気付いてもらう。「将来の選択肢を自分が作るんだ」って思うしかないんだと思うんです。

実はこれは難しい問題で、人がやってくれないですよね。自分で、将来の選択肢はもっとありそうだなと思う。これまでのキャリアの棚卸しから色々思い出してもらって、そこからどんな可能性が広がるのかなと思ってもらうことが重要だと思います。これは、若手社員の方にも言えます。

キャリアを考えるための手順

その時に、大事なことは社内に限定しないことです。社内も社外も両方考えてもらうことが大事で、「社内はもういいや」「辞めてもいいや」と一旦思ってもいいと思うんですね。

「転職しようかな」と思ってみたり、「自分で事務所作ってみようかな」でも構わないし、NPOでも構わないし、自分のやりたいことに思いを馳せて欲しいんですよね。会社にしがみつくなよ、と言いたいんですよね。

研修はそのきっかけになれば良いなと思っていて、答えは与えてくれない。

そう考えると、55歳の人が、「60になる前にそうしよう」と思うじゃないですか。そうすると、これから3年間の会社の中での働き方は変わりますよね。会社の中での泳ぎ方、リソースの使い方も変わると思うし、それが会社のためにもなるし本人のためにもなる。

江渕) きっかけを研修の場を通して提供することが、再活躍、活性化に繋がるということですね。

鳥居) そうですね。もう一つ違う角度から背中を押す要素としては、労働年数が長くなっていることですね。人生100年とすれば、70歳まで働くわけですよね。40歳でもまだ30年ありますよね、これが当たり前の時代になると思うんです。

そうすると、思ったより働く期間は長いわけで、今のままで豊かな人生が歩めるか、ということを考えるべきだと思います。

江渕) 実際にそのように考えて、行動できる人とできない人の違いは何かありますか。

鳥居) 仕事の面白みを感じている人は変化できるんだと思います。仕事って給料をもらうために仕方なくしているものだと思っている人は恐らく変化できないのでしょうね。(仕事は)お金を稼ぐだけのものではないよね、というのが変化の原動力かもしれませんね。

また、ポジションが生き甲斐だった人は、たぶん気力がなくなるのではないでしょうか。ポジションが会社員としてのゴール、やりがいで、人の上に立つことが重要な人は、そこから外されてしまうので、拠り所がなくなって、働く意味や意義が見いだせないかもしれませんね。

研修をしていると、「会社を辞めることは考えたこともありませんでした」という方も多いんですよね。辞めるか辞めないかが腹の底にあるからこそ、頑張れるのではないかなと私は思っているのですが。

魅力的なキャリア形成とは?

江渕) 最後に伺いたいのですが、「魅力的なキャリア」とは何でしょうか。

鳥居) まず40代半ば以降の方については、2通りありますよね。

一つは、ずっと今の会社で働くという方法です。その方は、上を極めて欲しいなと思います。現場から「あがる」ことは考えず、前線に居続けて下さいと思います。

もう一つは、その会社にいながらにして別の世界を持つというのは素敵なキャリアだなと私は思います。大学院でも、NPOでも何でもいいですよね。会社員をしながら別の世界を持つ。2つ目の世界を持ちながら、また自分の会社に貢献し続けるというのは、違った貢献ができると思うし自分も楽しいと思います。そういうキャリアはいいなと思ったりします。

若手社員の方については、期間限定でもいいから思いっきり働く期間は大事だと思います。5年後こうなりたいと思ったら、3年間頑張る期間がないと5年後そうなりません。やはり頑張らない人にはチャンスは巡ってこないので、期間限定でもいいので、むしろ期間限定で、自分が頑張る。すると、キャリアの選択肢が増える、キャリアの選択肢が増えるということは豊かであるということですよね。魅力的なキャリアというのは、常に選択肢を自分が手にしている状態、ということを若手の方には伝えたいですね。

江渕) どの年代であっても、キャリアは自分の手で創っていくものと考えられますね。どうも有難うございました。

キャリア研修についてご興味をお持ちいただきましたら、営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡をいただけたら幸いです。

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