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interviewインタビュー

野坂 匡樹 先生

2024.02.16

野坂先生に聞く「社会人に必要な読書」

今回は、書店に勤められながら本と人を繋げる仕事をされる野坂先生に、社会人に必要な読書について伺いました。最後にご紹介いただいたおすすめの本4選は必見です。

新入社員 若手社員

野坂 匡樹 先生 プロフィール:

大手書店に入社後、海外勤務、店長、本部勤務を経て、書店プロデュース・コンサルティング、出版サポートなど手がけるツクヨミプランニングを立ち上げる。

勤務している書店でファシリテーションの書籍を見かけたことがきっかけでファシリテーターを目指す。自身の職場でも活用しながらファシリテーションの技術であるホワイトボード・ミーティング®︎の認定講師の資格を取得し、研修活動を始める。
企業や学校、自身のフィールドである出版業界で講師を務め、ファシリテーターを育成している。

社会人に必要な読書は能動的に読んでアウトプットできる読書

-まずは簡単にご経歴を伺えますでしょうか。

野坂:20歳で旭屋書店に入社し、それからずっと30年間書店員として働いています。旭屋書店は途中で退社し、今はジュンク堂書店で働きながら、書店・出版のサポート、本の選書、販売、といった本に関わる色んなことをさせてもらっています。

その一環で、研修講師としても登壇させていただいていて、ファシリテーションに10年位前に出会い、研修講師としてあちこちに行くようになりました。私には本というバックグラウンドが強みとしてあるので、本とファシリテーションを掛け合わせた講座やイベントをさせていただいています。

-「本を読むのが苦手」という方、また会社側としては「若手社員に読書習慣をつけたい」といった声をよく聞くのですが、社会人が読書によって自己研鑽をしていくには、どうしたら良いでしょうか。

野坂:少し難しいテーマなのですが、本を読むのが苦手な人って多いですよね。

大雑把にですが、日本人は二人に一人が読書の習慣があり、一人は全く本を読まない、または苦手という人なんですね。でも、本に対する興味がないのかというとそうでもなく、YouTubeの本の解説が人気だったり、要約サイトにお金を払って要約だけ読んでいたり、最近ではオーディブルといって本を読んでくれるサービスもありますよね。

ただ、これらのサービスは受け身であるなと感じているんですね。能動的な読書とはちょっと言い難いかなと思っています。受け身であるということは、どうしても情報が右から左に流れてしまって、頭に残りにくいですよね。でも、実は読書する習慣があっても、情報って右から左に流れるんですよね。

ここで、能動的に読むとはどのようなことなのかなと考えた時に、私は「問い」をもちながら読むことが大切ではないかと思っているんですね。自分の問いに対して、読んでいるどの時点で答えが得られるかは分からないんですが、答えをみつけるまでの集中力はYouTubeや要約サイトでは難しいなと思います。

本を読むことが、長い人生を生きていく中で、自分だけの答えをみつけるための助けになると思っているんですね。YouTubeや要約サイトも、結局は人の解釈を鵜呑みにしているので、自分の問いを持って能動的に読んだということではないなと思います。

-問いを持ちながら読むことが、自分だけの答えをみつけることに繋がるんですね。

書店員として働かれる野坂先生

書店員として働かれる野坂先生

野坂:社会人に必要な読書ですが、ビジネス書でも小説でも、漫画でも何でも良いんですよ。何らかの問いを持って読んだ方がずっと頭に残るかなと思います。読み始める前は、どんなことが得られるのかなと、本に対して思いを馳せるのが良いのかもしれないですね。もちろんいきなり読んでも構わないです。

問いを基に読み進めていって、もし答えが見つかったら、その答えをシェアする、発信することによって記憶に定着するなと思います。

発信するということですが、皆が納得する正解が求められる世の中で、自分の答えを発信するのはなかなか勇気がいると思います。まだまだ、昭和・平成を生きてきた人には「正解がある」というものに安心感がある。YouTubeや要約サイトは「それが正解だ」という安心感があると思うんですね。でも実は、その人だけが気付いたことが、本当は皆が聞きたいことなんじゃないかと思うんです。

もし気付きや発見がなくても、「なかった」という発信をしても良いと思うんです。その発信から、自分の理解に新たな発見がもたらされるので、私はこれをアウトプットと呼ぶんじゃないかと思います。だから、社会人に必要な読書というのは、能動的に読んで、アウトプットできる読書だと思います。

会社の中で読書習慣をつけるために、本を買うことを奨励したり、本の購入に補助を出したりして、毎月一冊報告させる、ということがよくありますが、これは個人に(読む本を)任せてしまっていますよね。やはり、企業の目指すべき方向や、企業として大切にしたいことに則した本を読んでもらってアウトプットしてもらうのが良いのではないかと思います。従業員の読書会を通して会社の方向性を一つにするというのが理想的じゃないかと思います。そういう時に相談できる書店員がいるととてもいいですよね。

-もし気付きや発見がなくても「なかった」と発信しても良いというのはとても良いですね。答えを発信するというのは、SNSで発信するということではなくて、人に伝えるということで良いでしょうか。

野坂:人に伝えるということですね。SNSで発信するのも良いですが、SNSでもその後のやり取りもあるのかもしれないですが、深めるには対話が大事だなと思います。SNSで発信して溜めておくのは、何かあった時に感想としてすぐ出せるので良いですね。

-対話で深めるのが大切なんですね。

湧き上がってくる小さな問いや疑問を大切にする、最後には本質的な本に辿り着く

-個人的なことですが、私は本を読むのが好きなのですが、読みたいときに読むので、会社からの強制感を嫌に感じる方もいるのかなと思います。

野坂:自分の好きな本でも、会社から読むように強制された本でも、「この部分が、ウチの会社では大切なのかな」と思える箇所は必ずあると思うのです。そういう問いを持ちながら読むのも大事だと思います。「問い」は本を読む動機と繋がっていると思います。本を読む動機というのは、読みたいという気持ちですよね。それをどうやって芽生えさせるかがとても大事で、そういう意味では、要約サイトやオーディブルも本を読むきっかけとしてはすごく良いなと思います。ただ、大概の方は「分かった」という気になってそれ以上は読まない訳なんですね。

ただ、要約だとしても自分の中で湧き上がってくる疑問や問いは絶対あると思うんです。それをどれだけ大切にできるかで、次の読書に繋がってくると思います。

-問いというのは、どこの時点で設定するものですか。

野坂:どこで設定するというよりかは、読んでいく中で、自然に湧き上がってくる気持ちですね。読む前に「どんなことが書いてあるのかな」と思うことも良いですし、読み始めてからでもいい。

もちろん本というのは、興味を持つように書かれているので、小説でいう伏線のように、「どうなるのかな」と思うようになっていますが、読書を諦める人は、早く答えが知りたいので、小さな湧き上がってくる問いや疑問を無視してしまいがちだと思うんですよね。疑問が湧いて出てきても、答えがすぐに分からなかったら、もういいかと思ってしまう。最近のビジネス書は答えがすぐにわかるように、それが連続して出てくるように章立てされているものが多いです。

ただ、ビジネス書だったらビジネス書で、本質的な本というのが絶対あるんですよね。ドラッガーのような定番の本ですよね。ただ、読者に合わせて(読みやすいようには)書いてくれていない。でも、本質的なことが知りたいとなると、そこに辿り着くんですよね。ここには「読みたい」という動機がないと続けられないなと思います。

-確かにYouTubeでもショート動画があったり、音楽でもサビから始まったりと、近年は答えのような部分が早く出てくるようにされていることがありますよね。若い方はそれに慣れているように思いますが、年代もあるのでしょうか。

野坂:要約サイトを誰が見ているのかというと、意外とほとんどが30代、40代なんです。彼らに言わせると読む時間がないからということなんですが、今、正解がない時代と言われているじゃないですか。だから、余計答えが欲しいと思うんですよね。僕らの世代は正確がある時代で生きてきたので、正解があると安心なんですよね。今は何が起こるか分からない時代なので、正解が欲しい、しかも早く欲しい。焦るというのは安心したい気持ちの裏返しのように思います。

正解を作るというよりは自分の答えを作る、ということに納得できるような体験があれば、本はもうちょっと読まれるのかなと思いますね。

-自分の答えを作るというのは、人生の中でも大きな意味を持ちそうですね。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®とホワイトボード・ミーティング®

-先程、会社で読書会をするのも良いというお話がありましたが、強制感を感じずに行う良い方法はありますか。

野坂:私が研修の中で時折行っているアクティブ・ブック・ダイアローグ®という手法を使うと、気付いたことを手掛かりに対話を広げていくので、会社の求めていることを自分事化しやすいという特徴があります。読み方ですよね。

会社から本を渡されて「読んで感想を書け」と言われると強制感がありますが、「課題の本をみんなで読もうね」「感想をシェアしようね」とすると、やらされ感は少しは緩和できるのではないかなと思います。

-アクティブ・ブック・ダイアローグ®について、教えていただけますか。

野坂:1冊の本を最高10人位で、本をパートに分けて、そのパートを30分で読み込んでから30分でB5の紙6枚位にサマリーにまとめます。そのサマリーを壁に貼っていって、初めから順に1人2分でリレープレゼンしていくんです。それで一冊みんなで読んだということにして、次はギャラリーウォークといって、皆のサマリーの中で気になるところに印をしていきます。そして、ダイアローグといって、30分位、それについて語り合うんです。

それだけではやっぱりモヤモヤが残るんです。それが問いなんですよね。だから、自分でもう少し読んでみようというモチベーションに繋がる読み方なんです。

-どんな良い効果があるのですか。

野坂:まずは短時間で本が読めるということ。そして、気付き・発見を皆でシェアすることによって、多観的なものの見方を学んだり、気付き・発見が自分の気付きになりチームの成長に貢献されていると言われています。

野坂先生

野坂:私が研修で行っているのは、ホワイトボード・ミーティング®︎というファシリテーションの技法で、まさしく対話を通じて相互理解を促し、課題について方向性を一つにしていくので、相乗効果があります。

ファシリテーションは体系化された概念がないのですが、ホワイトボード・ミーティング®︎は体系化されていて、誰でもファシリテーターとしてマネジメントできる、すごく優れた技法です。そして、やっていてすごく楽しい。何が楽しいかというと、人とコミュニケーションをすること、オープンクエスチョンを使って深く理解することがこんなに楽しいものなのかと思います。そしてファシリテーターとして、仲間の意見を聞く姿勢を育ててくれます。ファシリテーターが聞いてくれると安心安全の場が作られ、何でも話すことができ、皆が話すようになります。楽しみながら技術がついてきます。

-楽しみながら技術を身につけられるのは良いですね。

身近な人が勧める本を読む

-本を読む習慣がない方は、どんな本を選んだら良いでしょうか。

野坂:これはよく聞かれて難しいのですが、私は身近な人が勧める本を読んでもらいたいなと思います。「信頼できるあの人が勧めるから」というのは、読書に対する大きなモチベーションになると思うし、「読んだらあの人に感想を伝えよう」というのは良いアウトプットになると思うんですね。

信頼できる人には、自分だけの答えを臆せず言える信頼関係があると思うんです。だから、質の良いアウトプットができるんじゃないかなと思っています。ただ、勧める側も、(意見を言われた時に)「それは違うよ」とは言わずに、まずは受け止めることをしていただきたいなと思います。

-これまでのお話でも出てきましたが、そもそも読書が苦手な方の対策はありますか。

野坂:これは難しい本を読むときにお勧めしているのですが、はしごをかけるといった感じですね。難しい本でも漫画版があったりするので、そういったところから徐々に入っていくのが良いかなと思います。読みやすそうな、自分が興味のあるものから入るのが良いですよね。きっかけを大切にしてもらえたら良いのかなと思います。

あとは、自分だけの感想をシェアできる場があるとすごく良いなとは思うんですね。誰か個人でも良いですし、読んだ人の意見から深堀りして考えることができるし、気付きや発見を得ることもできます。2人で同じ本を読むとか、人の力を借りるのも良いですね。

おすすめの本4選 -本は自分がなぜ生きているのか発見する友達

-今、おすすめのビジネス書を教えていただけますか。

野坂:「若い方で、本を読む習慣がなくても読める」というテーマで、4冊ご紹介します。初めの2冊はビジネス書ではないのですがおすすめです。

1.  三流シェフ

著者:三國 清三 出版:幻冬舎 (2022/12/14)

三流シェフ

野坂:若い人に絶対読んで欲しい本ですね。とにかくハングリー精神が学べます。

三國シェフは北海道のひなびた漁師町で生まれて、極貧の中で育ったのですが、持ち前のハングリー精神でシェフとしてのし上がっていって、さらに海外の大使館付きのシェフになって海外でフレンチを学んでいきます。そして、自分の店を持つ。年を重ねてもなお新しいことに挑戦して、フレンチの可能性を追求している。

ただ、技術があったから(シェフに)なれた訳ではなく、自分のバイタリティーをアピールして、わらしべ長者的に人を辿っていって大使館付きのシェフになったんですけども、その時はフレンチがわからなかった。でもその1週間後に大使を呼んで晩餐会をすることになり、死ぬ思いでフレンチのシェフたちに聞きに行くんですよ。そんな泥臭い努力で一流シェフになっていきます。多分若い人は「ええっ」と思うかもしれないけれど、すごく参考になります。

昭和・平成世代の人は「お前らにはこういうハングリー精神がないんだ」みたいな上から目線でいってしまうと思います。対して若い人は「だから昭和生まれは」とみてしまうと思うのですが、そうではなくて、昭和時代にも良いところはあるんですね。それはちょっと真似してほしいところなので、お勧めしたいなと思います。

2.  「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

著者:末永 幸歩 出版:ダイヤモンド社 (2020/2/20)

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

野坂:絵画の見方を教えてくれている本なんですが、絵画の見方に留まらず、多面的なものの見方ができるヒントがすごく詰まっていると思っています。

例えばピカソの絵を見ても、顔があっちこっちいって「なんだこれ」と思ってしまうじゃないですか。この本で、こういう見方があるんだよというヒントを与えることによって、「あ、なるほど」と思うんですね。

だから、物事を一つの角度から見るのではなく、色んな角度から見る。色んな角度から見るためには、違う角度から見ている人の意見を聞くのが一番良いと思うんですね。そういった行動に繋げるためにすごく良いなと思います。本当に多面的に見ないと解決できないことは山ほどあると思うので、その第一歩になる本かなと思います。

3.  とにかく仕組み化 ── 人の上に立ち続けるための思考法

著者:安藤 広大 出版:ダイヤモンド社 (2023/5/31)

とにかく仕組み化 ── 人の上に立ち続けるための思考法

3部作出ているうちの1冊目なんですが、この本は若い人が読んでもベテランの人が読んでも、初めはとにかく耳が痛いんです。耳が痛いんですけれども、最後はどこか読者への愛が感じられる。著者の安藤さんが言わんとしている「識学」というビジネスの1分野のエッセンスを得ることができます。リーダーとしてどんなことが必要なのかな、と思った時にこの本が役に立つかなと思います。

4.  「原因」と「結果」の法則

著者:ジェームズ アレン(James Allen) 翻訳:坂本 貢一

出版:サンマーク出版 (2003/4/15)

「原因」と「結果」の法則

野坂:世の中には色んな自己啓発本が出ていますが、それら全ての原点と言っていい本ではないでしょうか。いろんな自己啓発本を読んだ方は「あ、同じようなこと言っているな」と気づくこともあると思います。

ただこの本、書かれていることが抽象的なんですよ。だから、自分の答えというものを見つけるのが、ひょっとしたら困難かもしれないですけれども。その分、解釈の自由度があるのかなと思います。

-すごい熱量でご紹介いただき、ありがとうございます!

ちなみに、本に付箋が沢山貼ってあるのが気になりました。

野坂:本に書くのが嫌で、付箋を貼るんですね。付箋を貼ったところは後で見直したりするのですが、でもこのまま置いておくと本が傷んでしまうのである程度したらはがすのですが。これはたまたまはがしてなかった本ですね(笑)。

-日々沢山、本を読まれていて、本を見返す時間はあるんですか。

野坂:先程お話しした、シェアするという話ですが、私は読んだ本を定期的に何人かでシェアしあっているんですよ。その時に、この付箋が貼っていないと、どこで何を書いていたかわからなくなるので付箋を貼っているんです。その時に読み返すんですよね。あと、人の意見を聞いて「そうか、そうなんだ」と思ったりします。

-対面で行われているんですか。どんなメンバーでしょうか。

野坂:Zoomで行っています。起業している人がメインですね。起業している人は本当に本を読むので。そういう人達と本を読むことが多いですね。小説も、小説好きな人と感想と交換したりします。

-最後に、本はどんなものですか?

野坂:本は・・自分がなぜ生きているのか発見するための友達

本て、色んな人の分身な訳ですよ。考えがいっぱい詰まっている。自分が体験していない人生をその人は体験しているので、それが自分の人生を作り上げるピースになると思います。自分だけの哲学を作るためにも読書は必要で、その作り上げた哲学がまた読書の手助けになる。私が自分がなぜ生きているのかの答えは持てていないですが、きっと一生かけて探すのだと思います。

-本を読むのはおすすめですか?

野坂:おすすめです。

-人生における本の大切さ、良さを再確認できました。本日はありがとうございました。

野坂先生の研修にご興味をお持ちいただきましたら、是非営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡をいただけたら幸いです。