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interviewインタビュー

王地 裕介 先生

2023.06.15

王地先生に聞く研修アンケート設計の仕方「アンケートは社会をも変えうるコミュニケーションツール」

今回は、神戸医療未来大学 講師の王地 裕介 先生に、研修のアンケート設計について伺いました。実際にアビリティーセンターの研修アンケート設計のご相談をし、改善いただいた内容に基づいてお答えいただいています。学問に基づいた専門的な目線での設計の仕方のお話は必見です。

研修設計

王地 裕介 先生 プロフィール:

現在、神戸医療未来大学の経営データビジネス学科講師として社会調査を担当。
高校卒業後、浪人、茨城大学中途退学、英語専門学校の後、アメリカへ留学しネヴァダ州立大学リノ校にて2学位同時取得(哲学、スピーチコミュニケーション)。帰国後は、中高生向け学習塾で勤務。思わぬところから、独立し個人事業主して過疎地域での学習塾の経営に携わる。経営を1から知るために、社会人大学院生として兵庫県立大学に入学。MBAと博士号(経営学)を取得。現在に至る。

カテゴリー分けで上位概念を考える

-王地先生、本日はよろしくお願いいたします。まずはご経歴から伺えますでしょうか。

王地:よろしくお願いします。

出身は神戸で、茨城大学 理学部に入学したのですが1年間で自主退学し、1年間英語を勉強しまして、アメリカのネヴァダ州立大学に入学しコミュニケーションと哲学を勉強し3年間で卒業しました。

その後は神戸の学習塾を経由して独立し、過疎地での高校生向けの学習塾を行っていましたが、ビジネスの仕方も分からないままでしたので、31歳の時に一念発起し兵庫県立大学大学院のMBAに入りました。博士課程まで進み、この3月博士号を取得したところです。

現在は、神戸医療未来大学の講師として社会調査関連科目を担当しています。データサイエンス、ソーシャルリサーチといった分野で、留学生が大半のクラスです。

-サポーテスト合同会社様でも活動をされていると伺いましたが、サポーテスト様でのご活動について教えていただけますか。

王地:MBA卒業後「何かしら得た知識で貢献できないか」ということで、同期の仲間から5名程が有志として集まり、勉強会から始まり、企業様にコンサルティング業務を行うようになりました。サポーテストの名前の由来は、サポートという英単語で、最上級にあたる「est」をつけて造語を作りました。

食品製造業や旅館様等でのマーケティングのコンサルティングを行いつつ、商工会様から依頼を受けてアンケートやインタビュー調査等をして報告をするといった業務を行っています。

-ありがとうございます。

では、弊社よりアンケート設計についてご相談させていただきましたが、相談を受けた時にどう思われたか、どういう工夫をされたかを教えていただけますか。

王地:サポーテストは、MBAで得た知識を活かして地域の中小企業様に貢献することを望んでおりましたので、その場をいただけて有難いという想いと、私どもの限られた知識の中でどこまでお役に立てるだろうという不安も少しありました。

行った工夫としては、既存としてあるものを良いところ、良くないところをまず明確にし、それをもっと役に立つものを作ろうという視点で考えました。

質問内容の改定に至った課題

質問内容の改訂に至った課題の中でも、特に1番の尋ねる各質問の内容をもう少し関連付けたいということ、また3番の大学で勉強した経営学の理論を落とし込めないかということを考えました。

-経営学の理論に落とし込んでいただいたんですね。

王地:そうですね。

サポートテストで使用した現場力の質問項目

上記質問項目の3列目「二要因論」というのが、古典的な理論で、いかに満足度を上げていくかというものです。ただそれだけではなく、私が博士課程で研究してきた「現場力」の向上といった内容を含めた理論展開も入れさせていただきました。

-1列目に「要因分類」がありますが、これが起点になるのでしょうか。

王地:そうですね、記載の「動機づけ要因」「衛生要因」といったものが、古典的な理論になります。「動機づけ要因」「衛生要因」の二つがあれば、モチベーションは高まっていくだろうと考えられます。

-そうなんですね。アンケートを作る際に、もちろん分類を先に決められている方もいらっしゃると思いますが、質問内容から考える方もいらっしゃると思いますので、先に分類を決めるとクリアになりますね。

王地:ここがお役に立てるところだろうと思っています。

-ちなみに弊社のアンケートをご覧になって、最初の印象はいかがでしたか。

王地:かなり出来上がっているなと思ったのですが、単発では良いと思うのですが、継続性という面では改善ができるなと思いました。

継続性はご依頼の中には入っていなかったのですが、せっかくであれば来年、再来年と継続して使えるものの方がより企業様の役に立つだろうと考え、付け加えました。

-継続性というのは、アンケートの中では実際にどのように反映されるんですか。

王地:まずは既存の質問項目をカテゴリー分けしました。

既存の質問項目を4つにカテゴリー分け

大きく4つのことを聞いているのだろうなと推察し、そこからこの4つがどう関連しているか、分析しました。分析結果が、次のページです。

カテゴリー別の対応とご提案

4つのカテゴリーの中で「教育の機会」「仕事への態度」は重要なので残そう、「社員の能力・知識」は幅が広すぎるのではないか、といったように考えます。カテゴリーの一つ上の上位概念を考えた方がすっきりするし、どう変化していくかも見えてくると考えました。ここが継続していく上でも重要になっていくのかなと思います。

-確かに階層分けをして上位階層を考えるのは大切ですね。

ちなみに、カテゴリーと質問の順番がばらばらだったのですが、それは良いことなのでしょうか。

王地:ばらばらの方が良いと思います。同じものが続いていると推測されて、ずっと2・2・2・・等と記載する方もいますので、テクニックとしては問題ないと思います。

何を聞きたいのかを考え準備に時間をかける

-企業でアンケート設計をされる際に、学問のエッセンスで取り入れやすいところを踏まえて、設計の仕方のアドバイスを教えていただけますか。

王地:まず一つは、何を聞きたいのか、問題意識をはっきりすることが大事だと思います。満足度が知りたいので「満足度は何点ですか」と聞くのではなくて、「たぶんこういった要因で満足度が低いのだろう」と少し考えてみる、もしかしたら仕事量が多いのかもしれませんし、仕事場の環境が良くないかもしれません。

大学で学生にも教えているのですが、基本的にアンケートは1回ないし2回と、そんなに回数が行えないので、いわゆる仮説と呼ばれる準備段階に時間をかけることが大切です。

自分自身での失敗としても、アンケート結果が出てから「これはどういった意味なのだろう」と考えてしまうこともありましたので、考えてから聞くということが大事かなと思います。

-確かにある程度リードではないですが、聞きだしたいところを設定しておかないと曖昧になってしまいますよね。

王地:そうですね、漠然となってしまいますので。インタビューであれば「どういうことですか」と聞けますがアンケートはそうではありませんからね。

もう一つは、アンケートは万能ではない、ということは知っていただきたいなと思います。(アンケートを)作られた思い入れもあるとは思うのですが、回答者が本音を言わない場合や、何となくテキトーに答えてしまう、ということもあります。ですので、そういった状況を加味しながら、アンケートをどのように活用していきたいのかを考えていただいて、アンケートの位置付けを意識していただくのがポイントだと思います。

理解しきれない部分で学問の力を借りる

-先程仮説というお話がありましたが、アンケートの回答者に成り代わって考えるのが大事なのかなと思ったのですが、回答者への理解が大事なのでしょうか。

王地:そうですね、回答者の理解も大事だと思います。

ただ、回答者の理解には限界もありますので、そこで学問の力を借りて研究結果から情報を得るのも一つあると思います。

-そこで学問の力を借りるんですね。

カテゴリー分けのお話がありましたが、「このカテゴリーを設けておけばある程度把握ができる」といった、型のようなものはあるのでしょうか。

王地:「必ずこれを聞いておけば」というのは無いかなと思います。

これが経営学と経済学の違いかなと思っています。経営学の場合は、何に関しても文脈を大事にしています。企業によって同じ質問でも全然意味が変わってきたりするので、状況を知るのが大事だと思います。

私の専門としては、「現場の力をいかに高められるか=現場力」の土俵がいかにあるか、をみたいというのが行ってきた研究です。

-あの、「現場力」って何ですか・・?

王地:難しい質問ですね(笑)。

-すみません(笑)。

王地:論文でも書いたのですが、現場力と言うと、ぼやっと分かりそうではっきり分からない、というのが研究でもありまして、研究者の中でも定義が異なっています。

その前提の中で私が考えましたのは、「自分で新しいもの、やり方を考えて実行できる力」です。言われたことをするのではなく、自分の中で考えていかにカスタマイズできるか、それが現場力だと考えて、それをいかに数値化するかを考えてきました。

-現場力の高い人の要因は何があるんでしょうか。

王地:本人のモチベーションだけではなく、本人が何かしたいという時に経営者がいかにコミットメントしているか、そして教育の機会があるかが大事になります。

教育の機会を与える側ではなく、与えられる側に継続的にアンケートを行うことで、3年後、5年後、機会を与えられる側になった時にどう考えるかも考えられるように設計しています。

-なるほど、すごいですね。アンケートと言うと、基本的には研修であったりその対象を良くするためと考えますが、先生のお考えに基づくアンケートは、会社全体に影響があるように思いますね。

王地:その辺りまで織り込めたらと思っています。

更に深い調査、会社全体の前提と捉えて活かしていただきたいと考えています。

アンケートは会社全体、社会をも変えうる

-少し言及いただきましたが、アンケート結果をどう活かして欲しいか、について教えていただけますでしょうか。

王地:まずは受講者の満足度を知るというのは一つの指標だと思います。ただそれだけではなく、(アンケート結果を)活かすためには会社が何をするべきかを考える必要があります。人事もしれませんし、マナーかもしれませんし、会社の雰囲気全体としてどうしていくべきかを考えていただく機会として使っていただきたいなというのは思っています。

その上で、会社によって文脈が違うところがあるので、いかに自分の会社に当てはめていくかを考えていただくきっかけになればと思っています。

“それっぽいアンケート”は、簡単にできると思うんですね。結果も数字で出ますし、やった気になるところもあると思いますので。ただそれだけで終わるのではなく、(アンケート結果を)どう発展させていくかまで考える必要があると思います。

調査でインタビューでは分かることも多いのですが拘束時間が長いですし、得た回答の文章を分析することには時間や手間がかかることが多いです。一方、アンケートの場合は紙を配ってものの10分程度でできるので、調査としては簡単にはできると思います。しかし、その前の段階でいかにその質問をどう考えていくか、出た数字が何を意味しているのかまで考えるのが、データサイエンス・データ分析と言われるところで、大事なところだと思います。

-実施側が実施前によく考えて行い、その後も分析をしてどう活かすかまで考えることが大切なんですね。

王地:実施する側も答える側もテキトーにもできますので、難しいなと思いますが。

-確かにアンケートって両者で作るものなんですね。

王地:また、答えたことに対して良いフィードバックがあるのかを見せるのも大事だと思います。

-本当ですね。フィードバックまで行ってアンケートなんだなと、認識が変わりました。

本日お伺いしていて、アンケートの影響の大きさを感じ、アンケートはきちんと作れば経営にまでインパクトがあるものなんだなと思いました。最後に、アンケートの可能性についてお伺いできますか。

王地:アンケートは入り口ということはあるかなと思います。万能ではないという認識をする。

また、ある意味でのコミュニケーションのツールでもあると思います。アンケートの回答は答えを書く型式のものもあるかもしれませんが、何かしら伝えたいことがある場合に、その土台を用意するか、そして出てきたものをどう感じるか、それによって大きく変えうるものになるかなと思います。

大きな話をすると、会社だけでなく、社会自体を変えうる力にもなるのかなと思います。

依頼をお受けした調査で、ある地域でぼんやりと「会社の後継者がいない」と感じていたところ、実際に調査をしたら4割の会社で後継者がいないことが分かりました。後継者がいないと廃業してしまうことになりますので、ではそのために何をしたら良いか、答える側からしたら「何とかして欲しい」という想いがあると思いますし、公共機関を含めてどう動いたら良いか考えられるので、その意味では、会社、社会全体も変えうるのではないかと思います。

-アンケートの可能性の大きさを教えていただきました。

本日はどうもありがとうございました。

アンケート設計にご興味をお持ちいただきましたら、コンサルティングも行っておりますので、是非営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡をいただけたら幸いです。