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interviewインタビュー

瀧口 勇 先生

2023.03.29

弁護士 瀧口先生に聞く新入社員が知っておくべきコンプライアンス「想像力を働かせる」

4月を迎え、新入社員の皆様が入社される時期と言うことで、今回は新入社員の皆様が知っておくべきコンプライアンスについて、弁護士の瀧口 勇 先生にお話を伺いました。

新入社員 若手社員

瀧口 勇 先生 プロフィール:

登大路総合法律事務所 パートナー弁護士
中小企業診断士(2023年5月~)
MBA

コンプライアンスの問題は法令違反かどうかでの判断が多い

-瀧口先生、本日はよろしくお願いいたします。

瀧口:よろしくお願いします。

-まずはご経歴から伺えますでしょうか。

瀧口:弁護士は今年で10年目になります。
奈良県でいわゆる地域密着という形で、専門分野を設けず、民事も刑事も裁判所からの案件も企業法務も、何でも対応しています。年間相談数は、200件以上はありますね。

-そんなに多いんですね。

瀧口:そうですね、一日に10件程相談を受けることもあります。業務分野についてしいて言うと、事業再生に力を入れてきた方だと思います。また、今年独立して大阪に行く予定です。

-それはおめでとうございます。

瀧口:ありがとうございます。MBAを取得したので、今後は中小企業法務に注力したいと思っています。
他には、第三者委員会、企業研修・講演等も含め、依頼をいただいたら基本的にお受けしています。アビリティーセンターでは契約書に関するセミナーを行いましたね。

-それだけ色々依頼されるのは、やはり瀧口先生のお人柄なんでしょうか。

瀧口:紹介であったり直接依頼であったり、色々なんですが、裁判業務以外でもお願いされたらそんなに断ることはなく、出来るだけやれることがあればやるという感じなんですね。NPO法人の副理事長もしています。バラバラなんですが、バラバラのことをやっていると思わぬ所で繋がったりするのが面白いです。Connecting The Dots(点と点を繋ぐ。スティーブ・ジョブズ氏の言葉)の精神でいます。

-素晴らしいですね。ちなみになぜ弁護士になられたんですか。

瀧口:親が消費者被害に遭い、法律が詳しかったら助けられたんだろうなと思ったのもありましたし、テレビで弁護士をみて格好良いなと思った純粋な気持ちもありましたね。ちょうどロースクールが出来た頃で挑戦してみようかなと思い勉強し始めました。

-教えていただきありがとうございます。
では基本的なことになりますが、コンプライアンスとは何か教えていただけますでしょうか。

瀧口:弁護士は普段の業務でコンプライアンスってあんまり使わないんですよね。法律に違反するかどうかというだけの発想なんです。
コンプライアンスという言葉自体、結構抽象的なところがあるのですが、文献でよく説明されるのは「コンプライアンスは法律を守ること以上に、社会から期待されていることを守ること」ということですね。コンプライ(comply)が何かに合わせるという意味があるので、企業にとってのコンプライアンスは相手の期待に応えるということになります。
これが一般論ですね。1990年位から海外取引が増えてきて、グローバルスタンダードを重視して日本も合わせるという流れから起こりました。

ただ、「法令順守をしていたのにコンプライアンス違反でした」と紹介されている例を見ると、結局、法律違反なんですよ。例えば、あるビルで火災が起きて犠牲者が出たという事件で、その当時の消防法の基準は守っていました、と言う時に、結局業務上過失で犯罪として立件されているんですね。そうすると法律違反なんですね。

-確かにそうですね。

瀧口:そういうものが大半なんですよ。バイトテロ※も労働契約法上の誠実義務に違反していますし、情報漏洩はプライバシー侵害ですよね。結局、コンプライアンスは法律違反の話になるのではないかと思います。

※アルバイト従業員が不適切な動画を投稿する等し企業の信頼を落とすことで、近年ニュースに取り上げられることも多い。

なぜそうなるのかと考えると、法律違反も色々あって、法律は基本的に「要件に当てはまるとこういう効果が出ますよ」という書き方なんですね。 その要件は、とてもはっきりしているものもあれば、規範的要件といって曖昧な要件もあるんです。例えば業務上過失致死で、過失があったかという判断は難しい。ラインの線引きは結構曖昧なので、社会常識で変わっていくんですよね。

だから、コンプライアンスの「相手の期待に応える」というのは、過失を解釈する時に読み込まれていって、最後は法律違反かどうかで判断しているのではないかなと思ったんです。

-逆に言うとコンプライアンスの問題と言われるようなことで、法令違反をしていないことはあまりないんですかね。

瀧口:あまりないなと思いました。よく言われるのがSNSの問題ですが、有名人の来客を投稿したというのも、プライバシー侵害ですよね。
コンプライアンスは法律順守ということですが、法律でカバーされている範囲は実はけっこう広いんです。ですから、社会の期待ももちろん大切なのですが、あくまで私の考えではありますが、法律に違反するかどうか、法律をよく理解するということが重要なのではないかと思います。

-確かにコンプライアンスと言われることは、よく見ると法令違反になっているんですね。

常識は過去の事例の集積で見えてくる

-今伺ったお話に関わっていますが、なぜコンプライアンスが大事と言われるのでしょうか。

瀧口:先程お話したグローバルスタンダードの話が出てきて、守っていないと消費者や投資家から敬遠されますよ、企業価値に影響しますよ、というのが一般的に言われることですよね。
コンプライアンスが守れていないと社員自体も労働意欲が低下するだろうし、良い人材も来ないだろうし、会社として大きなダメージも出てくるだろうし、コンプライアンスの関わる範囲はとても広いということかなと思います。

多くの件でコンプライアンスは法律に関わってきますが、法律について詳しく知るとなると全員司法試験を受けなければならないことになってしまうので、コンプライアンスを気を付けましょうというより、常識を働かせましょうと言った方が、広く浸透しやすいのかもしれませんね。
法律も常識で考えればわかる範囲も大きいんです。「有名人が来客しました」と投稿したら、「その人はどう思うかな」ということですよね。

-難しいと思うのが、「常識」と思われることと違うことをする人がいるのは、恐らく常識が人によって違うからで、常識というのはどうやって身に付けたら良いのでしょうか。

瀧口:そうですよね。そのことに関して、司法試験の受験の時に悩んだことあるんですよ。微妙なラインで法律に違反するかどうかという時に、「常識を働かせましょう」と講師に言われたことがあったんですが、そこが全然ピンと来なかったんです。

-ピンと来なかったんですね(笑)。

瀧口:それで、微妙なラインを解くのが得意な同期に聞いたことがあったんです。そうしたら、「沢山の事例を見ていたら、この時は適法、違法と、なんとなくメタ的に分かる。それが常識」と言われたんですね。常識は過去の事例の集積で見えてくるものということなんですね。

-なるほど!

瀧口:新入社員の方に常識を働かせろと言っても、過去の事例を知らないから難しいですよね。法律は、過去の人間の失敗をどうやったら防げるかという人類の英知の結晶となんですよね。やはりコンプライアンス研修を受けるのが良いのではないでしょうか。

-研修に繋げていただきありがとうございます(笑)。
法律というのは過去の人間の失敗から成り立っているんですか。

瀧口:そうです。法律も憲法もそうですね。過去の失敗から出来上がっていく、それが人権と言われるものですね。

立ち止まり、相手がどう考えるか常に想像する

-新入社員の方が知っておくべきコンプライアンスについて、教えていただけますか。

瀧口:SNSは特に本当に慎重にすべきだと思いますね。
また、就業規則はあまり見ていない方が多いですが、見ておいた方が良いですね。法令違反・ハラスメント・不正経理をしないでください、仕事に専念してください、個人情報を守って下さい、会社の信用を守ってください、ということを定めていることが多いです。

あとは業務以外の話ですが、社内で不倫をしてそれが業務に支障をきたしてるという相談はよくありますね。不倫自体、犯罪ではないですが民法上の違法行為ではあります。直ちに懲戒事由になる訳ではないですが、コンプライアンスに関わってきそうですよね。

-一見プライベートと思われるようなことも、違法行為にあたり就業に影響があることもあるんですね。

瀧口:また法令違反で多いのは、組織的な問題になりますが、例えば何か資格を取得するのに「実務要件として何時間従事する」と決まりがある時に、時間数を偽って資格を取得させるというのがありますね。

-それは内部監査などで分かるんですか。

瀧口:従業員の方からの話で分かることが多いです。
後々表に出ると、大きな企業であればマスコミが来て会社全体の信用に関わることだと思いますので、気を付けられた方が良いと思います。
ハラスメント関係では、部下や同僚へのいじめみたいな話はよく聞きますね。

-最近お客様からよく伺うのは、これまでの逆と言いますか、部下側が強くなりすぎて上司からの業務上の注意をハラスメントと言われてしまうというお話があるのですが、その点はいかがでしょうか。

瀧口:世代間で指導のギャップが激しいなというのは感じます。裁判所の世界でもそれは感じるんですね。例えば、債権者集会で昔は怒号が飛び交っていたと聞きますが、今はそういったことはまずないです。
社会的な価値観が世代を超えて変容しているところがあるので、そのギャップでハラスメントという話になっているところがありますよね。上司の世代は、自分が当たり前のように言われたことを部下に言うと、部下はその価値観を知らないのでハラスメントだと感じています。

ハラスメントというのは定義があるんですよ。過失はどこまでか、という話と同じで、どうなったらハラスメントかというのは国が法律やガイドラインで決めてるんですね。労災認定するときに、その法律やガイドラインに従って認定をしているので、その法律やガイドラインをしっかり押さえておくのが大事ではないでしょうか。人によってハラスメントの捉え方は違いますからね。

色んな価値観がある世界の時は、自分が法律違反を犯さないようにするというのが大事ですね。自分をある意味防衛するということですね。
法律と、そのガイドラインを知っていて、それに沿った発言をしていれば、少なくとも自分を守れるし、仮にずれた議論になっても法律やガイドラインを軸に戻ることが出来ます。
やっぱり研修を受けないとだめですね(笑)。

-ありがとうございます(笑)。
初めにSNSについて少し触れていただきましたが、今問題になることも多いかなと思いますので、SNSに関してもう少し教えていただけますか。

瀧口:インフルエンサーの方がSNSの世界で価値観を作っていってるようなところもありまして、たまに若い方がその価値観でお話に来ることがあります。しかし、インフルエンサーの方の価値観が、社会的に丸な訳ではないので、自分で線引き出来る感性を持っておく必要がありますよね。ですから、感性が磨かれるまでは会社のことに関わることは一切SNSで言わない方が良いと思いますね。これは危険かな?と考えずに、基本ダメと思っておいた方が良いですね。

私もSNSのアカウントは持っているのですが、発言はしにくくて、特にどこに行きましたとリアルタイムでつぶやいてしまうと、自分がそこに居るのが分かってしまいますよね。
事件の内容を言っていなくても、察する人もいるかもしれないし、例えばバカンスであれば「ちゃんと仕事してくれてるのかな」と思う人もいるかもしれない。仕事内容に関わらないこと発言しても意外とそういうふうに思う人はいますよね。
インフルエンサーのように自分のプライベートを明かすことをビジネスにしている人と、そうでない人とで、違う論理が働くのかなと思いますね。

-SNSは軽い気持ちで手を出しやすいところもありますが、発信することを仕事にされている方とは異なるという自覚が必要なんですね。

瀧口:インフルエンサーの方は個人事業者なので、何をしても最後自分が責任取るんですよね。ただ社員の方は、やはり大きな企業になればなるほどステークホルダーが増えますから、自分がやったことの責任が取り切れませんからね。

-確かに、まずインフルエンサーの方が個人事業主であり、会社の社員とは異なる立場であると捉えている方が多くないかもしれないですね。

瀧口:あとは不正経理をしない、水増し請求しない、ということもありますが、少しせこいことをしようと、例えば電車で行くと言って自転車で行くというのも同じことです。

-それはリアルにありそうなお話ですね。

瀧口:それも詐欺ですからね。水増し請求したというのも詐欺ですが、規模が違うだけでどちらも詐欺なんですね。
例えば窃盗罪が「万引き」と言われるようにカジュアルに変換されていることもあるので、犯罪ですよということは心に留めておこうということですね。

-最後にメッセージを頂戴したいのですが、本日は法律に関わるお話を多く伺いましたので、社会で働く人間として、法律とどう関わっていったら良いかお伺いできたらと思います。

瀧口:重要なところを常に意識する。分からなかったら専門家や周りに聞く。
立ち止まって、「あれ、これって大丈夫かな?」と思えれば、後調べをしたら良いので、「あれ?」と思えるかが大事なんですよね。法律もそうですが、常識的な発想でこれって大丈夫かな?と思えるか。想像力でしょうかね。
「これをSNSにあげたら相手はどう思うかな?」とか、相手がどう考えるかなと常に想像する意思を持っておく。想像力を働かせる、立ち止まるということが大事だと思います。

-相手のことを考える想像力、本当に大切ですね。
本日はどうもありがとうございました。

瀧口先生の研修にご興味をお持ちいただきましたら、是非営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡をいただけたら幸いです。