馬場先生に聞く~海外経験を物語で伝える「新しい働き方」のヒント
2026/2/5
海外での経験を「物語」にして、日本の職場や組織のあり方を問い直す、初の著書を出版した馬場勝男講師。『ニッポンの外で見つけた「新しい働き方」の物語』に込めた思いや、執筆の背景について伺いました。
馬場先生のプロフィールはこちらをご覧ください。
聞き手|アビリティーセンター企業研修グループ 田中 恵子

「海外経験」は、どう本になったのか
-『ニッポンの外で見つけた「新しい働き方」の物語』は、一言で言うとどんな本でしょうか。
馬場:基本は、私の海外での経験を書いている本です。ただ、実は本当に言いたかったのは、その海外の経験を使って、国内のいろんな組織改革をどうしていったらいいか、というところなんですね。前半は海外経験の話が多いのですが、後半では、それを使って組織改革をどうするか、という話を書いています。海外経験そのものも面白いとは思っているんですが、それ以上に、そこから得た視点を日本の職場にどう持ち帰るか。そこを伝えたかった、という本です。
-そもそも、なぜ本にしようと思われたのでしょうか。
馬場:前職で研修をやっていて、海外赴任者研修を担当していました。海外赴任者の事前教育ですね。その中で、教材になるような話を、実はいろいろ書きためていたんです。それをまとめたら一冊になるんじゃないか、というのが一つ。もう一つは、CQ(異文化理解)の研修を受けたときに、異文化摩擦の事例をストーリーにする演習があって、それが自分で書いていてすごく面白かったことです。「なかなかこれ、面白いな」「発表したら面白いんじゃないか」そんな感覚が重なって、「じゃあ、ちゃんと本にしてみようか」と思ったのがきっかけでした。
「誰も悪い人はいない」という視点
-海外でのご経験の中で、日本で働く人にもぜひ知ってほしいと感じたことはありますか。
馬場:一言で言うと、「誰も悪い人はいない」ということです。実は、これは最初に考えていた本のタイトル候補でもありました。サウジアラビアでの経験が大きいのですが、中東の人に対して、日本人は誤解している部分が多いと思います。イスラム教徒は怖い人だとか、あまり真面目に働かない、のんびりしている、といったイメージですね。でも実際には、みんなその文化に従って生きているだけなんです。悪意があるわけでも、意地悪をしているわけでもない。その国、その人なりの文化があって、その文化に従って正しく生きている。日本人も同じで、勤勉だと言われますが、それも文化の中で「そうするのが自然」だからやっているだけなんですよね。
-「誰も悪い人はいない」というのは、確かに日本人同士でも同じことが言えますよね。そのあたりが「新しい働き方」というタイトルにつながってくるんでしょうか
「新しい働き方」につながる問い
馬場:そうですね。日本はこれまで、「みんな同じ」「みんなに合わせる」というやり方でうまくいってきました。でも今は多様化が進み、それがうまくいかなくなっている。だから新しい考え方が必要なんですが、実は、海外、とくに移民が多い国では、もう当たり前なんです。私はそれを海外で体験して、「これがこれから日本でも必要になる働き方なんだ」と感じました。つまり「相手が悪いわけじゃない」「相手も一生懸命やっているんだ」という前提で話をするということですね。
今の組織の管理職の方々は、共通の悩みを抱えているように感じます。従来のように厳しく指示を出すと「パワハラだ」と言われる。一方で、それを恐れて何も言わずにいると、組織はうまく回らない。多くのマネジメントが、この振り子の間で揺れているのではないでしょうか。この問いに対する一つのヒントが、この本の中にあると思っています。それは「気づかせるマネジメント」です。本書の中で何度か描いている、気づきを促す対話による変革のプロセスは、現場の参考になるのではないかと思います。
なぜ“物語”で描いたのか
-ところで、この本は、「物語」という形式で書かれていますね。とても読みやすく引き込まれましたが、初の著書でここまで書かれるのは大変だったのではないでしょうか?
馬場:一番大変だったのは、バラバラに書いていたケースを、一つの一貫したストーリーにすることでした。もともとはケーススタディとして個別に書いていた話が多かったので、それを並べるだけでは、物語にはならないんです。そこで取り入れたのが、いわゆる「英雄の旅」というストーリーの型です。未熟な人が旅に出て、いろんな経験をして、壁にぶつかりながら成長して戻ってくる。世界中の神話や物語に共通する構造ですね。
もう一つ意識したのが、感情の書き方です。「寂しかった」とそのまま書くのではなく、落ち葉が一枚舞っている、といった情景で表現する。そうすることで、読者が主人公の気持ちを自分なりに想像してくれるようになります。
また、物語としての読みごたえを出すために、最初に出てきた人物が後半で重要な役割を果たす、といった伏線回収も意図的に入れました。
-色々な工夫をされているんですね。主人公は馬場さんなのかなということも読みながら気になりました(笑)
馬場:それはそうではなくて、自分を含めていろんな人のキャラクターを合算しているんですよね。私自身の部分もかなりありますが。
現場で起きてほしい変化

-本書のテーマを研修に取り入れるとすると、どのような研修になりますか?
馬場:CQ(異文化理解力)の基礎となるホフステッドの6次元を使って、本書のエピソードを読み解いていく研修が考えられます。また、後半で扱っているファシリテーションによる組織改革については、具体的な事例集として研修に活用することもできると思います。ファシリテーションというのは、A案とB案があったらそれを戦わせてどっちが正しいか決めるという従来の会議のやり方ではなく、お互いが納得できる、腹落ちのできる第三の案を考え出す、そういうアプローチです。なかなかこの辺りも日本では普及していませんが、これから必要になってくる考え方だと思っています。
-最後に、この本を手にとってくださる方にメッセージをお願いします。
この本を通して、一番伝えたいのは、やはり「誰も悪い人はいない」ということです。職場で起きている問題も、誰かが悪いから起きているわけではない。それぞれが、自分なりに正しいと思うやり方で、一生懸命やっている結果なんですよね。
そうした前提に立てると、「どうして分かってくれないんだ」と相手を責めるのではなく、「この人は、何を大切にしているんだろう」と考えることができるようになる。それだけで、対話の質は大きく変わります。この対話を前提にした働き方が、これからますます必要になってきます。
この本を読んだ人それぞれが、自分の現場を見直すきっかけになれば嬉しいですね。
馬場先生の研修にご興味をお持ちいただきましたら、営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡いただけたら幸いです。