小笠原先生に聞く~ダイアログ・ベースド・リーダーシップ(DBL)が導く、対話で育てるチームマネジメント
2026/1/22
1on1やコーチング研修が広がる一方で、「何を話せばいいのかわからない」「聞いても部下が答えてくれない」と悩む管理職は少なくありません。そうした課題に対し、小笠原豊道氏は著書『コーチングもティーチングも超えるリーダーシップ』の中で、対話を軸にした「ダイアログ・ベースド・リーダーシップ(DBL)」を提案しています。本インタビューでは、その背景と実践について伺いました。
小笠原先生のプロフィールはこちらをご覧ください。
聞き手|アビリティーセンター企業研修グループ 田中 恵子

なぜ今、「ダイアログ・ベースド・リーダーシップ」なのか
-まず、なぜこの本を書こうと思われたのか、きっかけを教えてください。
小笠原:対話の大切さ自体は、かなり以前から感じていました。ただ、OJTの研修などでコーチングやティーチングを扱う中で、「これはコーチング」「これはティーチング」と切り分けて指導することに、どうしても違和感が残ったんです。実際の現場では、ティーチングであっても相手に気づきを与えられる人がいますし、コーチング的に関わろうとしてもうまくいかない場面もある。そういう場面を数多く見てきて、「今まで学んできたことを一度整理し直す必要があるな」と思ったのが、この本を書く直接のきっかけです。
-対話の重要性を感じるようになった背景には、現場でのご経験も大きいのですよね。
小笠原:そうですね。私はもともと技術職出身で、特に電気を扱う仕事をしていました。電気の現場では、意思疎通がしっかりできていないと、本当に命に関わることがあります。また、コミュニケーションが不十分だと、トラブルの発見が遅れたり、結果的に手戻りや修正に時間がかかったりする。そうした経験を通して、「意思疎通」「対話」というものは、単なる人間関係の話ではなく、仕事の質や安全性を左右する根幹だと感じるようになりました。
-「コーチングもティーチングも超える」というタイトルにもつながりますが、現代のマネジメントにおいて、従来型リーダーシップのどこに限界を感じていらっしゃいますか。
小笠原:今はOJTと言っても、同じ現場に一緒に行けない、時間が取れないなど、マンツーマンで丁寧に育成するのが難しい時代です。そうなると、部下や後輩を十分に観察できない。だからこそ、対話の中で相手の状態を見極め、関わり方を変えていく必要があります。「この時間はコーチング」「この時間はティーチング」と切り分けるのではなく、対話の流れの中で自然に使い分けていく。その発想が、今のマネジメントには欠かせないと感じています。
DBLとは何か──対話を基盤にするリーダーシップ
-ダイアログ・ベースド・リーダーシップ(DBL)を一言で表すと、どのようなリーダーシップでしょうか。
小笠原:指導やマネジメントの基盤になる影響力の形だと思っています。今は価値観が本当に多様化していますよね。だからこそ、相手がどういう思いで、何を考えているのかを汲み取らなければ、マネジメントもリーダーシップも機能しなくなってきている。DBLは、相手の話をしっかりと聴き、その意思とすり合わせながら関わっていく。その土台をつくる考え方です。
-一般的なリーダーシップ論と比べたとき、DBLの特徴はどこにありますか。
小笠原:これまで私も、シェアド・リーダーシップやオーセンティック・リーダーシップなど、さまざまな理論を学んできました。それらは、考え方や姿勢、アプローチに重きが置かれている印象があります。一方DBLは、対話そのものを通じて、リーダーシップやマネジメントを形づくっていくところに重心があります。つまり、「どう考えるか」よりも「どんな対話を重ねているか」が問われる。そこが決定的な違いだと思います。
-DBL的なアプローチが機能している組織には、どのような共通点がありますか。
小笠原:「DBL」という言葉を使っていなくても、対話をベースにしてエンゲージメントを高めている企業は実際にあります。そうした組織では、コンプライアンスやハラスメントの問題が起きにくい。日常的な挨拶がきちんとできているなど、関係性の土台が整っているケースが多いですね。対話があることで、問題が大きくなる前に軌道修正できる。そこが大きいと思います。
1on1を機能させる「対話の設計」
-1on1が形骸化しているという声をよく聞きます。DBLの視点から、1on1を機能させるポイントを教えてください。
小笠原:DBLを整理していく中で、私の専門分野でもあるインストラクショナルデザインが非常に役立ちました。特に使っているのが、学習意欲を高めるARCSモデルです。これは「注意」「関連性」「自信」「満足」という4つの視点で学びを設計するモデルですが、1on1にもそのまま応用できます。例えば、「なぜこの話をするのか」「この話が今後どうつながるのか」を示す。相手が少し前向きになれるような声かけをする。そして「話してよかった」と感じられる終わり方を意識する。こうした流れを設計することで、1on1はぐっと機能しやすくなります。
-「聞いても部下が答えてくれない」という管理職の声も多いですね。

小笠原:それは当然だと思います。「今日はあなたの話を聞くから何でも話して」と言われても、なかなか話せないですよね。だからこそ、テーマを絞ることが重要です。問いを小さく、具体的にする。「今、何について聞いているのか」が伝われば、人は答えやすくなりますし、そこから相互理解が進んでいきます。
1on1に限らない、日常業務における対話の実践
-DBLの対話は、1on1以外の場面でも活用できそうですね。
小笠原:そうですね。例えば日常の「報連相」。報告を受けて「お疲れさま」で終わらせるのではなく、「どこを工夫した?」「何に気づいた?」と一言添えるだけで、学びの質は大きく変わります。また、目標設定面談やフィードバック面談、人事評価の場面も、DBLが生きる重要な場です。
-会議の場でも有効でしょうか。
小笠原:はい。会議で何も言わず、終わってから不満を言うのではなく、対話を回していく。これはファシリテーションにもつながりますが、DBLの考え方を意識することで、会議自体の質も高まります。
研修への活用と、AI時代における対話の価値
-DBLはどの階層の研修に特に適しているとお考えですか。
小笠原:最近特に組み込んでいるのは、中堅社員やOJTリーダー層です。もちろん管理職研修でも扱います。また、最近は被評価者研修や、ハラスメント防止・対応の文脈でもDBLのエッセンスを取り入れています。上司と部下の関係だけでなく、顧客対応や先輩・上司との関わりにも応用できる点が特徴です。
-研修では、どのように対話を学んでもらっているのでしょうか。
小笠原:やはりロールプレイが一番効果的です。相手役の抵抗の強さを段階的に上げることで、「対話の中でどう納得を引き出すか」を体感してもらいます。また、あえて部下に管理職役をやってもらうことで、立場が変わったときの難しさを実感してもらうこともあります。

-最後に、この本を手に取る方へのメッセージをお願いします。
小笠原:まずは管理職の皆さん、指導に悩んでいる方に読んでいただきたいですね。若手からベテランまで、幅広く使える内容だと思います。AIが進化する時代だからこそ、人にしかできない「ダイアログ」の価値は高まっていく。この本が、対話を見直す一つのきっかけになれば嬉しいです。
小笠原先生の研修にご興味をお持ちいただきましたら、営業担当者、もしくはお問い合わせフォームからご連絡いただけたら幸いです。