新たに管理職になる皆様へ ― まず目標設定から始める
2026/2/26
管理職への内示を受けたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「メンバーをどう育てるか」「どう関わるか」ということかもしれません。しかし本当に最初に考えるべきことは、別のところにあります。新任管理職研修を数多く担当してきた鳥居勝幸氏に、管理職としての第一歩について伺いました。
鳥居 勝幸氏のプロフィールはこちらをご覧ください。
聞き手|アビリティーセンター企業研修グループ 田中 恵子
「あの頃の自分」にいちばん教えてあげたいのは、目標設定だった
-鳥居先生がはじめて管理職になった時のことを覚えていますか?そのころの自分に教えてあげたいことはありますか?
鳥居:やってあげたかったなと思うのは、目標設定をちゃんとしてあげたかったですね。今になって、これは結構重要だなと思います。本当は、それぞれの人に合った目標が設定できると一番いいんですよね。
昔は数字ありきで、数字の割り振りだけになりがちでした。もちろん数字も大事なんですけど、数字以外の、その人の特性を生かした定性的な目標も、もっとちゃんと設定してあげたかったなと思います。
管理職の心構えは「目標が先」。コミュニケーションや育成は“その後”
-管理職になるにあたり、まず、どんな心構えが必要でしょうか?
鳥居:一つ目は、組織の方向性を伝えることだと思います。企業で言うと中期経営計画やビジョンですよね。ただ、伝えるためには自分が理解していないと話せないので、上司に質問しに行かなければいけないんですよ。
それができたら次にやるのは、自部署の目標設定です。上の方針がわかったら、自分の組織の目標を決める。そしてその次に、メンバーの目標を設定する。この順番なんです。
-まず目標なんですね。
鳥居:「目標を決める」ことが一番初めに大事ですね。そして目標を決めたら次に戦略です。次に大事なのが組織化=人の配置と役割分担。その後に、コミュニケーションや育成とか、いろんなものが来る。
でも管理職になった途端に、すぐ人のことを考え始めるんですよね。一体感を作りたいとか、育ててやりたいとか、コミュニケーション取らなきゃとか、ハラスメントに気をつけようとか。もちろん大事なんだけど、順番が違う。まずは目標。その次に戦略(課題)。次に組織化。それができて、初めてコミュニケーションや育成が生きてくる、ということだと思います。
だから管理職になった時の心構えは、結局は、組織の方向性を理解して、自分の組織の目標を決め、メンバーの目標を決める。まずここなんです。
「大変そう」の正体は、方向性より“人のこと”が先に気になるから
-その役割を担うのは大変そうだと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、いかがでしょうか?
鳥居:新任管理職研修でも、みんな「大変だ、大変だ」って言いますね。何が大変なのかというと、ほとんどの人は、圧倒的に人のことなんですよ。具体的には、メンバーに役割を与えて、目標設定できるか不安。メンバーをどう育てるか不安。この二つが圧倒的に多いです。講師の立場から言うと、組織の方向性を理解することとか、自組織の目標を決めることの方がよっぽど難しいと思うんですけどね。でも、人のことが一番気になる。怖い。先にそれが来ちゃうんですよね。
-なぜそこまで「人のこと」が不安になるのでしょうか?
鳥居:これ、昔の管理職と違うところなんですけど、管理職になるまでメンバーを持った経験がない人が多いんですよね。教える、面倒を見る、フィードバックする。そういう経験があまりにもない。真っさらなんです。
背景としては、リーマンショック以降ぐらいから、組織がミニマムになって、みんなプレイングマネージャー化していった。今管理職になる人は、そのプレイングマネージャーの下にしかいたことがない。ちゃんとマネジメントされていた感覚がない。上司は「プレイヤーの先輩」みたいな感じだった。自分の下に後輩はいたけど、教えることを上から言われていないし、自分も余裕がない。結果として、面倒を見る役目を経験していない。全員プレイヤー化しちゃった。その弊害で、メンバーというものに恐怖感を持っている。これは多分間違いないですね。
プレイヤーから抜けるコツは「毎日1時間、マネージャーの時間を確保する」
-では、プレイヤーからマネージャーになるにはどうしたらいいでしょうか。
鳥居:プレイングマネージャーであることは、急には変えられないと思います。ただ、普通に毎日を過ごしていると、当たり前だけどプレイヤーの方が多くなるんですよ。何も考えずにやっていると、自分がプレイヤーとして属人化する。そうするとメンバーに仕事を渡せなくなる。メンバーが育たない。ますます自分がプレイヤー化する。これは悪魔のサイクルです。
なのでアドバイスは一つ。マネージャーの時間を、1時間でもいいから毎日多く取ること。自分で決めて、今週はマネージャーの仕事を何時間やったのか、必ず振り返る。決めれば、プレイヤーとして動いていることをメンバーに渡さざるを得なくなるじゃないですか。だから、プレイングマネージャーで良しとするんじゃなくて、マネージャーを目指してくださいというのがアドバイスですね。
「向き合う」の論点はギャップを埋めること。シーンは目標設定と評価の2つ
-管理職として、部下やメンバーと向き合ううえで、どのような関わり方が必要だと思われますか?
鳥居:まず目標設定なんですけど、毎年同じ目標にしないことだと思います。やっている仕事は毎年そんなに変わらない。だから目標がコピペ状態になるんですよね。それをさせない。ちょっとした改善でもいいし、品質向上でもいいし、作業効率でもいい。あるいは後輩を教えるでもいい。今年はこれを目標にしようねっていうのを、一個でも加えてあげる。それでメンバーが成長し始めます。
次に評価です。評価は二種類あって、1つ目が半年に一回の人事評価面談、2つ目が日々のフィードバック。大事なのは、日々のフィードバックがあってこそ人事評価が生きてくるということ。日々がなくて半年に一回だけだと、部下は訳が分からないし、具体性のないいい加減な評価になってしまう。
それで、目標設定と評価のどちらも、対話の論点は一つです。ギャップを埋めること。目標設定では、管理職は「もうちょっと高い目標やってよ」と思うけど、メンバーは手堅く来る。真面目だから、やれることしか言わない。ここにギャップが生まれる。だから話し合って、ちょっとだけストレッチしてもらう。そのために、目標だけじゃなくて、戦略や課題設定まで一緒に考える。さらに、上司がフォローする。はしご外しは嫌なので、この二つがあると「じゃあやってみます」になりやすい。
評価にもギャップがあって、上司はB評価、部下はA評価と思っている、ということがありますね。部下は頑張ったことを認めてほしい。上司は結果が出てないことを言いたい。論点がずれている。上司は、結果と行動を具体的に、客観的に、丁寧に話すこと。加えて、姿勢や意欲は承認してあげる。でもそれは人事評価にはできなかった、というだけの話なので。
この二つのギャップを埋めるプロセスを経ると、本当に人間がわかるし、本当の上司と部下になれる気がします。多少コンフリクトもあるけど、それを経て理解できたらいい。

「高みを目指す上司」が、人を伸ばす
-最後に、新たに管理職になる皆さんへ、メッセージをお願いします。
鳥居:これは私の経験なんですけど、今この歳になってこのような仕事をさせてもらっているのは、昔の上司のおかげでもあると思っています。高みを目指す上司に育てられたのが事実ですね。高い目標を掲げて「一緒にやろうぜ」という上司。
部下にとっても、長い目で見たら悪いことではないと思います。若手社員は成長を気にしている。成長させてくれるのは、高い目標を目指す上司だと思いますね。
ギャップを埋めるときは、年に二回だけ緊張感が高まる瞬間がある。でも、それは避けるものではなくて、むしろ健全だと思います。そういう上司の方が、メンバーを成長させてくれると思います。
管理職の役割は、「組織の方向性を理解し、目標を定めること」から始まる。
そして、目標設定と評価の場面でギャップを埋める対話を重ねることが、本当の意味での上司と部下の関係をつくっていく―。
こうした管理職の基本的な考え方や実践のポイントは、動画教材「管理職の基本」でも体系的に解説しています。